今回はINNINGS製品にとって重要なデバイスであるストレージに関して、説明していきます。
ストレージメディアにはいろいろな種類がありますが、一番皆さんが目にしやすいのは
カードメディアでしょうか?スマートフォンにも使用できるマイクロSDカードを家電量販店で
見かけることが多いと思います。多くのデジカメに採用されていたSDカードも最近は見かけなくなってしまいましたね。
INNINGS製品で現在OSの起動メディアとして採用しているのは、SSDになります。
これはPCのパーツショップなどに行かないと実物を目にする事も少ないかと思います。
以前はSSD以外にHDDも2.5インチサイズの組込み市場向けの製品が存在していたのですが、現在
はラインアップがなくなってしまいINNINGS製品で採用できるHDDが存在しなくなりました。
SSDは「Solid State Drive」の略称で、日本語にすると「半導体ドライブ」となります。
原理的にはどんな半導体メモリデバイスで構成されていても良いのですが、一般的な製品としては
NAND Flashメモリで構成されるものをSSDと考えて良いと思います。最近のNote PCではほとんどSSDが採用されていますよね。
2020年は下記の記事のようにもしかしたらストレージの主役がHDDからSSDに切り替わった記念すべき年になったのかもしれません。
SSDですが、形状によって大きく2つに分類されます。
1.HDDと同じ形状のもの2.5インチサイズのものが主流
2.SSDならではの形状のものmSATAやM.2,CFast,PCIeカードタイプなど
そしてインターフェースによって、大きく3つに分類されます。
1.SATA
2.PCI Express
3.PATA(最近は、ほとんどなくなってきています)
もう一つ重要なのが、搭載されるNAND Flashメモリのデータ格納方法の種類です。
1.SLC
2.pSLC(疑似SLC)
3.MLC
4.TLC
5.QLC
また、NAND FlashメモリはそのChipの構造によって2種類に分かれます。
1.プレーナ型
2.3D NAND型
SLCやMLCなどはプレーナ型のタイプが多く、TLCやQLCは3D NAND型が多くなっています。
これらはそれぞれの製品によって組合せが異なるので、一言にSSDと言っても中身や性質は大きく異なります。
比較的皆さんの目に触れるような一般市場で販売されている製品とINNINGS製品で採用しているような製品は、上記分類ではどれにあたるのでしょうか?
代表的な製品で比較していきましょう。
Amazonで2020年末に「SSD」で検索して、一番売れている製品と表示されたのでCrucialのMX500シリーズのスペックを見ていきましょう。
https://www.crucial.jp/products/ssd/crucial-mx500-ssd
・形状:2.5インチサイズ(HDDと同じ)
・接続するインターフェース:SATA
・搭載されているNAND Flashメモリのデータ格納方法:TLC
・搭載されているNAND FlashメモリのChip構造:3D NAND
・容量:250GB~2TBまで
では弊社で採用している組込み向けSSDと比較してみます。一番採用事例の多い製品はCFastです。
https://product.tdk.com/info/ja/products/flash-storage/flash-storage/cfast-drive/catalog.html
形状:SSDならではのCFast
接続するインターフェース:SATA
搭載されているNAND Flashメモリのデータ格納方法:pSLC
搭載されているNAND FlashメモリのChip構造:プレーナ型
容量:16GB~128GBまで(pSLCタイプの場合)
になります。
SSDに搭載されている、NAND Flashメモリにはデータ書き込み/消去の回数に上限値があります。
HDDで磁気記録を行うディスク(プラッター)は理論上書き込み/消去の回数に上限値がないので、
書き込みを行った容量によって使用不能にはなりません(それ以外の要因で壊れやすいのですが)。
しかし、SSDは使用を続けているといつか書き込みが出来なくなるという性質を持っています。
このいつかを求める指標のひとつがSSDの書き込み総容量(TBW)と言います。
書き込み総容量に一番大きな影響を及ぼすのが搭載されているNAND Flashメモリのデータ格納方法になります。
NAND Flashメモリは、内部のブロック単位で書き込みと消去を実行します。
このブロック単位の書き込みと消去の回数(=P/E Cycle)がデータ格納方法によって異なります。
SLC > pSLC > MLC > TLC > QLC
の順で、P/E Cycleが異なります。NAND Flashメモリの製造メーカはP/E Cycleの値を非公表にしている場合が多いのですが、
SLC 10万回 > pSLC 2万回 > MLC 3千回 > TLC 1千回~3千回 > QLC 数百回
くらいの値だと言われています。
データ格納方法以外に半導体の製造ルール(ナノメートル)によっても上記の値が異なるので、TLC格納方法の回数に幅があるのはそのような背景があります。
では、なぜ書き込み総容量を増やすために重要なP/E Cycleの多いSLCやpSLCで一般的なSSDは作られていないのでしょうか?
それは、コストに大きな差が生じるからになります。上記で比較した2つの製品でも容量は最大容量同士(128GB vs 2TB)の比較で16倍もの差がありますね。
NAND Flashメモリの容量当たりのコストは、P/E Cycleの順番と同じです。
SLC > pSLC > MLC > TLC > QLC
つまりSLCが一番高額になります。
SSDが大きく一般に普及したのは、NAND FlashメモリがChip構造で3D化を達成したこと及びTLCやQLCといったデータ格納方法を実現し、
1つの素子面積あたりの容量を増大し、コストを低減することができたからに他なりません。
しかしながら、その分書き込み総容量に代表される信頼性が犠牲になっていると言えるのです。
INNINGS製品でも大容量SSDが搭載できる製品を用意しています。
上記3製品には、240GB/480GB/960GBの2.5インチサイズのSSDを用意しています。
これらは
形状:2.5インチサイズ(HDDと同じ)
接続するインターフェース:SATA
搭載されているNAND Flashメモリのデータ格納方法:TLC
搭載されているNAND FlashメモリのChip構造:3D NAND
と一般市場向けと同じように見えますが、高信頼性産業用SSDを採用しています。
TLCや3D NAND Flashメモリを採用していても信頼性を確保した製品です。
これは産業用のSSDを製造しているメーカの製品であり、一般市場で入手できる同方式のSSDとは製品設計の思想が異なります。
以前紹介した「産業用PCと普通のPCの違い」でご説明したのと同じようなものだと捉えていただければと思います。
各産業用SSDのメーカは、搭載するコントローラやファームウェアと呼ばれる制御ソフトウェアを工夫してSSDとしての信頼性向上に取り組んでいるのです。
(もちろんNAND Flashメモリの基本的な性格をすべて覆すような性能は実現できないのですが。)
組込み市場向けに使用するSSDの選定は、採用する製品の用途から想定される稼働期間や必要な総書き込み容量・書き込みを行う頻度・求めるコスト条件・保守
作業の可否・書き込むデータの種類など、さまざまな要素を検討し、比較することが重要になります。弊社でもお客様から要望やデータをいただき、SSDメーカに相談を行うことがあります。それだけSSDの選定はシステム全体の信頼性を左右するほど重要なものなのです。
◆信頼性の高いMRAMを搭載した拡張ボード【M2BM-NVM】
弊社ではSSDの弱点をカバーするためにMRAMというデータ書き込み/消去の回数に
上限値のない半導体メモリを採用した小容量ストレージ製品を用意しています。
外部からの取得頻度が高い少量のデータを保持する必要がある場合などにSSDと一緒に
使用することで、システム全体でストレージ領域の最適化が図れます。
総書き込み容量やSLCやTLCなどは、それだけで本が書けてしまうほどの内容なので、
今回はだいぶ省略してしまいました。
皆さんも選択に迷いましたら弊社にお気軽にご相談ください。
弊社もお客様と悩みながら選択のお手伝いをさせていただきます。
では、次回のコラムもお楽しみに。
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